認知症を知ろう~予防・早期発見・悪化防止・接し方~

■認知症を予防するには

 

認知症とは…

 


 認知症とは、脳がダメージを受けて記憶力や判断力が低下し、日常生活に支障が出ることです。“食事をした”や“その人に会った”という「体験したこと」を覚えている場合は単なる物忘れで、自分が体験したことそのものを忘れてしまうというのが認知症です。認知症は一度発症してしまうと元に戻すことは困難と言われています。図1のグラフにあるように、70代を過ぎると認知症有病率が高くなってきます。


                                                                           図1 認知症有病率

認知症になると脳のダメージが徐々に進んでいくので、さまざまな支障が日常生活に生じてきます。

最初に起こるのは、「認知機能の障害」です。これは、記憶力や日付・曜日・人の名前などを正しく把握できる見当識が低下するというものです。

次に起こるのが「日常動作の障害」です。これは、入浴や着替えなどが上手くできなくなってしまうというものです。

その後、「運動機能の障害」が起こります。これは、食べ物を飲み込んだり歩いたりすることが難しくなるというものです。この運動機能の障害が出てくると、寝たきりになったり肺炎などの命に関わる病気を起こしやすくなります。




認知症の原因とは…



 認知症の原因は、さまざまな病気が原因となって発症します。中でもアルツハイマー病は原因の約7割を占めています。アルツハイマー病は記憶を司る脳の“海馬”(2)という部分の萎縮から始まり、脳全体に萎縮が拡大していきます。アルツハイマー病のある人の脳には、アミロイドβたんぱくという物質が多く溜まっています。この物質は脳で作られ、本来は自然に分解されるが分解されずに脳に多く溜まると、神経細胞が障害されて脳が委縮していくのです。この物質は、アルツハイマー病を発症する10~20年前から溜まり始めます。そのため、70代で発症しやすいアルツハイマー病は50歳を過ぎたら予防に取り組む必要があります。

                           

                                             図2 脳の図式(海馬はピンクで示した部分)                                                     


 そのほかの原因としては、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害を原因とするものです。これらは、認知症の原因の約2割を占めています。脳血管障害によって脳の血流が妨げられると、その先にある神経細胞が死んでしまうため、認知症が起こります。最近注目されているレビー小体認知症は、脳の中にレビー小体と呼ばれる特徴的な物質が現れ、それによって神経細胞が死滅して認知症が起こります。前頭側頭型認知症は、言語や理性などを司る脳の前頭葉や言葉の意味理解などを司る側頭葉から萎縮が始まることによって起こります。これは、50歳代などの若い人に起こりやすいのが特徴です。



認知症にならないために…

 

 認知症のリスクは生活習慣病により高まるということが分かってきました。生活習慣病はアミロイドβたんぱくが増加しやすくなったり、動脈硬化を進めて脳梗塞や脳出血を起こすリスクを高めるので脳血管障害による認知症の原因にもなります。また、糖尿病があるとアルツハイマー病になるリスクが2倍になると言われています。

 認知症を予防するためには、生活習慣病の予防と脳を使った運動がポイントとなります。食生活改善や適度な運動・禁煙などの生活習慣病の予防が、認知症の予防にもつながります。すでに生活習慣病がある場合は、薬によって治療を行い病気をコントロールすることが大切なのです。また、計算などの脳を使いながらウォーキングや有酸素運動を行うなど脳を使った運動が今注目されています。これは、脳の血流が増加して脳が活性化し、記憶力や判断力などの認知機能の低下が抑えられると考えられています。そして、人とのコミュニケーションにも認知予防の効果があります。



■認知症を早期発見するには

 

物忘れテストと初期症状チェック

 

 認知症を早期発見するには、まず物忘れテストと初期症状をチェックします。

 物忘れテストにおいては、関連性のない3つの言葉を覚えてもらい少し時間をおいてから思い出してもらうというやり方です。言葉は口頭だけで覚えてもらい、別のことに意識をそらしてから思い出してもらいます。このテストで5~10分後通常2つ正しくは答えることができます。1つしか出てこなかったり2つ目以降がヒントでも出て来なかった場合は、物忘れ(記憶障害)以外の認知症の初期症状も確認します。

 

 初期症状のチェックには、7項目あります。

  ①同じことを何回も話す・尋ねる。

  ②物の置忘れが増え、よく捜し物をする。

  ③以前は出来ていた料理や買い物に手間をかける。

  ④お金の管理が出来ない。

  ⑤ニュースなどの周りの出来事に関心がない。

  ⑥意欲がなく、趣味・活動をやめた。

  ⑦怒りっぽくなった・疑い深くなった

 

①と②は典型的な記憶障害の症状にあたります。また、③と④は実行機能障害という物事を順序立てて考えられない・実践できないという症状です。さらに、⑤と⑥は物事への興味ややる気がなくなるという意欲低下の症状です。⑦の症状は①~⑥の症状が影響することで疑い深くなることで現れる症状です。このチェックは、当てはまる項目が多いほど認知症の可能性が高くなると考えられています。誰でも年齢とともに認知症のリスクは高まるので、定期的なチェックが必要となります。

 

 

注意したい症状とは…

 

 

 認知症の早期発見のために注意したい症状が2つあります。それは「取り繕い」と「幻視」です。

 

 アルツハイマー病のある人は、「時間のあるときは何をしていますか?」というような質問に対し、「特別なことはしていません」や「いつもと同じです」などというようなきちんと受け答えをしているようで答えに具体性がありません。このような取り繕いを繰り返す場合は、アルツハイマー病が疑われます。

 

  2つ目の「幻視」と呼ばれる症状はレビー小体型認知症の場合によく現れる症状です。実際にはいるはずのない人が見えたり、声が聞こえたりするので、一人で会話をするようなことがあるのです。このような「取り繕い」や「幻視」と呼ばれる症状が現れたときは、早い段階で認知症を疑って受診につなげていくことができます。

 

 認知症が疑われたら下図のような医療機関を受診することが大切です。医療機関への受診を勧める際には、本人が安心して受診できるように「たまには脳の健康診断を受けてみよう!」というように家族などが声掛けをすることも大切となります。

■認知症の悪化を防ぐためには

 

 

飲み薬 

 

 認知症の中で特に薬の効果が期待できるものがあります。それは、アルツハイマー病です。アルツハイマー病の薬には、4種類あります。この4種類の薬の効果を大きく分けると2つです。

1つ目は意欲を向上させるという効果、2つ目は気持ちを穏やかにするという効果があります。

 

 では、まず意欲を向上させる効果を持つ薬について紹介したいと思います。この効果を持つ薬の種類は全部で3つあります。ドネペジルとガランタミンという飲み薬、リバスチグミンという貼り薬の計3つです。2つの飲み薬は、吐き気、嘔吐、食欲不振、下痢などの消化器症状や、脈拍が遅くなるなどの副作用が現れることがあります。一方、貼り薬は薬の成分が皮膚から吸収されるので、消化器症状などの副作用の頻度は少なくなります。

 また、気持ちを穏やかにする薬にはメマンチンという飲み薬があります。この薬は、意欲を向上させる薬と併用することで怒りっぽくなるのを抑えることができます。メマンチンを使っていて、食欲不振、ふらつき、強い眠気などの副作用が現れてきたときには、薬を飲む時間帯を就寝前にするなどして変えたり、薬の量を調整するなどの対処をする必要があります。

 

 

回想法・芸術療法

 

 薬の治療と同時に回想法や芸術療法といったものも認知症の悪化を防ぐのに効果があります。

 

 回想法は、昔の写真・昔使った道具やおもちゃや若いころにはやった映画や歌番組などを見ることで家族やグループで思い出を語るという方法です。長い間、定着していた記憶は残っているので、子どものときや若いときに体験したことは会話がしやすいためにこの方法を用いることができます。

 

 また、芸術療法は絵画や工作、懐かしい歌を歌ったり楽器を演奏するという方法です。これらの行為は体で覚える記憶であるため、長年やっていなくても以前に慣れ親しんだことであれば自然にできることが多いためです。この方法を実践するときには本人が親しめるテーマを選ぶことが大切なのです。

 

 

家事によるリハビリ

 

 料理や掃除、洗濯などの家事もリハビリになります。家事には、高度な記憶力や複雑な判断力が必要になります。認知症の人にとって家事というのは簡単なことではありませんが家族が一緒に行いやり遂げることで、達成感や自信を得ることができます。そのため、認知症に対する良い効果が期待できるのです。

 

 認知症の方と一緒に家事を行うことに対して4つのルールがあります。

1つ目は、1つ1つシンプルにお願いするということです。認知症の方は、視野的に認識できる範囲が普通の人の半分程度なので2つのことをお願いする際には、2つのものが視野に入っている必要もあります。

2つ目は、うまくいっていることを伝えるということです。上手くできているということを伝えることで、次の作業にスムーズに進めることができます。

3つ目は、さりげなく手伝うということです。手が止まっていて戸惑っているときには、次の作業を先回りしていいさりげなく手伝います。

4つ目は、感謝を伝えるということです。作業をやり終えた後に感謝の気持ちを言葉で伝え、自分が必要とされていると感じてもらうことで家事をする意欲を生み、次につなげることができます。

 

 

■認知症の方とどう接するか

 


日常生活での接し方

 

 認知症の方との日常生活での接し方には、4つの基本があります。

1つ目は、ゆっくりやさしい言葉で話すということです。ゆっくり話すことで、認知症の方が話の内容を理解しやすくなります。

2つ目は、短く簡潔に話すということです。短く簡潔に話すことで理解しやすく、行動もしやすくなります。

3つ目は、先回りして伝えるということです。認知症の方は次にすることを忘れてしまうので、戸惑って不安感に襲われたり、自信を失ったりしてしまいます。先回りして伝えることで、次に何をするのかを知ることができます。

4つ目は、できないことを非難しないということです。認知症の方は、自分が失敗してしまうということ・できないことですでに傷ついているので、それを非難されるということでさらにダメージが大きくなってしまいます。そのため、できないことを寛容に受け止めてあげることが必要なのです。


 

認知症の特徴を知る

 


 認知症が進むとさまざまな行動が現れます。ここでは3つ紹介します。


 まず、認知症が進むと意欲低下がみられたり思い通りにいかないことが多いため自信を失い趣味や活動をやめ、外出する機会が減ってしまうため家に引きこもりがちになってしまいます。引きこもりになってしまった場合、引きこもりの理由を調べることが必要です。本人に理由を聞いても上手く説明できるとは限らないので、注意深く観察して理由を探す必要があります。


 2つ目は、物取られ妄想というものです。記憶障害のために自分が片づけたということ自体を忘れてしまいます。そのため、不安な気持ちを避けようとして自分を納得させるために誰かが盗んだと思い込んでしまうのです。このようなとき、「とってない」と反論するのではなく感傷的にならず見つからないものを一緒に探すようにします。見つかったときは、解決したことを一緒に喜び、一緒にお茶を飲むなどして話題を切り替えてあげることが必要です。そうすることで、興味や関心が別の話題に向くと前のことに意識が行きにくくなります。この物取られ妄想は、認知症の症状と共にひどくなっていくのではなくそのつど適切に対応することで徐々に治まっていきます。


 最後に興奮や暴力です。認知症が進むと、夜中に興奮して大声をあげたり、ささいなことで暴言を吐いたり暴力を振舞うことがあります。認知症の方は、日ごろから大きな不安を感じているので戸惑いや驚きの感情が過敏になっています。そのため、まわりのちょっとした変化に対して戸惑いや驚きが増幅して怒りや恐怖に変わり、興奮や暴力に繋がってしまいます。興奮や暴力が現れたときには、家族や介護をする人の安全を最優先で考えることが必要です。そして、いったんその場を離れ、人を呼び、一時的に避難するなどして身の安全を確保することが必要になります。症状が落ち着いた後に、いつ、どこで、どんな状況で、誰に対し、どの程度の興奮や暴力だったかを記録し、状況を整理することで興奮や暴力の背景が分かるときがあります。


 認知症の特徴を理解し、落ち着いて向き合うことができれば、自分や家族にできることを考えて、認知症の予防や進行防止に役立てることができます。